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名古屋地方裁判所 昭和58年(ワ)246号 判決

原告 株式会社中京相互銀行

右代表者代表取締役 中野仁

右訴訟代理人弁護士 鈴木匡

同 大場民男

同 山本一道

同 鈴木順二

同 伊藤好之

同 鈴木和明

右訴訟復代理人弁護士 吉田徹

被告 伊藤春一

被告 伊藤賢一

右伊藤賢一訴訟代理人弁護士 堀井敏彦

被告 伊藤彦久

主文

一、被告伊藤春一及び同伊藤彦久は連帯して原告に対し、金二八三万四二九八円及びこれに対する昭和五七年九月二一日から支払済みに至るまで年一四パーセントの割合による金員の支払をせよ。

二、原告の被告伊藤賢一に対する請求を棄却する。

三、訴訟費用は、原告と被告伊藤春一との間に生じたものは同被告の、原告と被告伊藤彦久との間に生じたものは同被告の、原告と被告伊藤賢一との間に生じたものは原告の負担とする。

四、この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、

1. 被告らは連帯して原告に対し、金二八三万四二九八円及びこれに対する昭和五七年九月二一日から支払済みに至るまで年一四パーセントの割合による金員の支払をせよ。

2. 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因及び抗弁に対する認否として、

1.(一) 原告は訴外伊藤喜盛との間に昭和五一年二月一二日、左記内容の相互銀行取引約定を締結した。

ア  原告に対する債務を履行しなかった場合には、支払うべき金額に対して年一四パーセントの割合の損害金を支払う。

イ  破産の申立があったとき、債務の一つでも期限に弁済しなかったときは、期限の利益を失う。

(二) 被告伊藤春一及び同伊藤賢一は昭和五三年一月一七日、訴外伊藤喜盛が原告に対して現在および将来負担する取引上のいっさいの債務について、元本極度額を金三〇〇万円として連帯保証した。

(三) 被告伊藤彦久は昭和五三年一二月二九日、訴外伊藤喜盛が原告に対して現在および将来負担する取引上のいっさいの債務について、元本極度額を金三〇〇万円として連帯保証した。

2.(一) 原告は訴外伊藤喜盛に対し昭和五七年七月三〇日、別紙手形目録記載の手形にて金三〇〇万円、弁済期昭和五七年九月二〇日の手形貸付をなし、現に右手形を所持している。

(二) 右手形につき訴外伊藤喜盛は、昭和五七年一〇月七日金一六万五七〇二円の内入をなした(残元金二八三万四二九八円)。

3. 而して訴外伊藤喜盛は、昭和五七年一〇月七日、破産宣告を受けた(昭和五七年(フ)第二〇二号)。

よって本訴に及んだ。

4. なお被告伊藤賢一につき、昭和五五年三月六日破産宣告、昭和五六年四月二二日免責決定、同年五月七日免責決定確定の事実は認めるが、本訴請求の債権の発生は昭和五七年七月三〇日の手形貸付であって、右免責の効果は及ばない。昭和五三年一月一七日の継続的保証債務は右免責決定確定によって当然に終了するものではない。

と述べた。

被告伊藤春一は、

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求め、請求の原因に対する認否として、

1. 第1項は認め、第2項は不知。

2. 被告伊藤春一は本件債務を弁済する意思はあるが、現在無資力で如何ともし難い。

と述べた。

被告伊藤賢一訴訟代理人は

1. (主文第二項と同旨)

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求め、請求の原因に対する認否及び抗弁として、

1. 第1項中、(二)は認め、その余は不知。

2. 第2項は不知、第3項は認める。

3. 被告伊藤賢一は昭和五五年三月六日、名古屋地方裁判所において破産宣告を受け、昭和五六年四月二二日に免責を許可され、同年五月七日に右許可決定は確定した。

同被告の原告に対する本件保証は元本極度額を三〇〇万円とする根保証契約であるから、その被担保債権の確定に関する民法第三九八条ノ二〇第一項第五号が類推適用され、保証人の破産宣告によって元本は確定する。よって同被告が破産宣告を受けた昭和五五年三月六日に元本は確定したが、その時点での原告の債権額は零であった。

仮にそうでないとしても、本請求の原因は究極的には昭和五三年一月一七日付の保証契約であるから、基本となるべき原因関係は前記破産宣告の前である昭和五三年一月一七日の時点において把えるべきである。

と述べた。

被告伊藤彦久は公示送達の方法による呼出を受けた。

証拠関係〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因事実は以下の通りの対応する根拠ないし証拠によってそれぞれ認定することができる。

1. 第一項(一)の事実(被告春一との間では争いがない。)

甲第一号証(弁論の全趣旨によって成立を認める。)

2. 同項(二)の事実

被告春一、同賢一との間で争いがない。

3. 同項(三)の事実

甲第二号証の一(被告彦久名下の印影を真正な公文書と推定される甲第四号証上の印影と対比して真正に成立したものと推定する。)

4. 第2項(一)の事実

甲第三号証(被告春一、同賢一との間では成立に争いがなく、被告彦久との間では弁論の全趣旨によってその成立を認める。)

右によれば原告の被告春一及び同彦久に対する請求には全部理由があるのでこれらを認容し、訴訟費用の負担についてはそれぞれ民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を適用して、主文第一項、第三項、第四項の通り判決する。

二、次に被告賢一主張の抗弁について検討するに、同被告が原告に対する保証行為(昭和五三年一月一七日)と原告の訴外伊藤喜盛に対する今回の手形貸付(昭和五七年七月三〇日)との中間の時点において破産宣告を受け、免責許可の決定があり、右決定が確定したことは当事者間に争いがない。ここでの問題は被告賢一が右昭和五三年一月一七日付で負担した原告に対する連帯保証債務がその後の同被告の破産、免責によってどうなるかということであるが、当裁判所はこのような場合、同被告(当時原告の具体的な貸付が未だ発生していず、債務額自体はゼロであったとしても)破産の後に免責を得たことによって、双方当事者の何らの意思表示を要することなく破産前の原因によって生じた同被告の原告に対する前記保証による責任は当然消滅するものと解する。即ち同被告の抗弁には理由があるから、原告の同被告に対する請求は失当であるのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して、主文第二項、第三項の通り判決する。

(裁判官 西野喜一)

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